コーポレート・サイコパスと聞いて思い出すこと

昔、私が勤務する会社に大手の生保から移ってきて役員に就いた人物がいた。T専務と呼ぼう。その生保は当時会社の筆頭株主だったはずだ。私は直接T専務に接する機会はなかったが、次の逸話は記憶に残っている。

ある時、私の職場に「先日T専務が出張された際に激怒されることがあったようなので、今後そんな機会があれば注意すること」という話が伝わってきたことがあったのである。激怒の理由は、行った先の駅だか空港だかに誰も出迎えに来てなかったから、というものだった。

はぁ? という感じだった。出張先は国内である。自分の職場の上司も多少面喰っているような感じだった。率直に言えば、そこまで会社のお偉いさんにしてあげなければいけないのか、と感じていたのだ。大手生保との文化の違いとも言える。

現地の駅か空港へ着いたらまずはどこへ行くのか、事務所かホテルか面会先か、そのくらいはさすがに連絡してあったとは思うのだが、子供じゃないんだから一人でタクシーでも何でも使って行けばいいはずだ。思うに、出身元の大手生保では、自分が行く先々でずっと社員がつき、何から何までやってくれるのが当たり前だったのかもしれない。何の目的でその地へ出張したのかは知らないが、どうせお得意さんへのご挨拶程度しか用件はないはずだ。全く違う業界から移ってきて、製品も技術も知らないお偉いさんが実務に関われる訳がない。多分現地で、肩書が釣り合う人間が出てこないといけない場面が出来て、社長など他の役員でもよかったのがたまたまどういう訳かT専務が行くことになったのだろう。

ずっと後になって、「コーポレート・サイコパス」という言葉があるのを知った時、まずはこのT専務を思い出した。昭和の時代の大手生保の役員なんて皆そんなものだったのだろう。

そのT専務の訃報が先日新聞に出ていて、意外と若い年齢に驚いた。生保から移ってきたのは50代前半だったと知った。そんなに早く、大手生保で出世競争の最終ラウンドまで登り詰めて脱落したというわけだ。

それを見て、きっと生保の方でも厄介者だったのだろうなあと思いを馳せた。